
埼玉県蕨市を拠点に世界で活動する唯一のカーディティーリング職人、奥村。
その仕事ぶりは、一般的な“洗車のプロ”という言葉では少し説明が足りない。むしろ近いのは、美というテーマを扱う美術家、あるいは光を整える職人だ。車のボディをただ磨くのではなく、塗装の肌や光の反射を読み取り、その車が本来持っている表情を引き出していく。奥村にとって車は機械ではなく、時間と個性が刻まれた「美しい作品」である。


2017年、彼が27歳の時に勤めていた会社から独立をし、作り上げた彼のチームはこれまでに6,000台以上の車と向き合い、年間800台を超えるガラスコーティング施工を行ってきた。数をこなしてきたというより、数えきれないほどの車のコンディションチェックをしてきたと言った方が近い。外装の状態、内装の使われ方、細部に残るわずかな気配。それらを観察していると、オーナーの性格やライフスタイルが自然と浮かび上がってくる。潔癖なほど整えられた一台もあれば、忙しさの中で少し疲れて見える一台もある。奥村はそれを、まるで占い師のように読み取りながらチームで仕上げていく。

備州長船助光(450年〜500年前)
ただし、彼を少し変わった専門家にしているのは、仕事だけではない。プライベートでも奥村のこだわりは強い。骨董品や、選ぶカメラ、乗る車やバイク、旅先で見る景色。そうした日常のすべてに、自分なりの強いこだわりの美意識がある。例えばアクセサリーひとつとっても、素材の質感や光の出方を観察してしまうという。金属の輝き、磨き方、光の反射。そうした感覚は、やがてそのまま塗装の磨き方へとつながっていく。
「新品から育ていくスタイル、ヴィンテージで歴史を受け継いでいくスタイル、どちらもできたら格好良い」

奥村自身はよくこう言う。
「日常のこだわりが、仕事の感覚を磨いてくれる。」
実際、彼の仕事にはその感覚が色濃く表れている。ポリッシャーは単なる工具ではなく、光を整えるための筆のような存在だ。塗装の表面を整える作業は、削るというよりも“磨き出す”という行為に近い。隠れていた深みが現れた瞬間、車は静かな存在感を放ち始める。その瞬間を見るのが、彼にとって何より面白いのだという。

Dubai
その感覚は、日本だけで育ったものではない。奥村はスリランカ、ドバイ、カタール、アブダビなど海外でも施工を行い、現地のコーティングのプロフェッショナルに技術を教えてきた経験を持つ。砂漠の光、湿度の高い空気、水質の違い、文化による美意識の差。世界で施工を重ねることで、同じ車でも環境によって輝きが変わることを体感してきた。

Qatar

Sri Lanka
そして、その経験と個人的な美意識が混ざり合い、奥村の中で一つのスタイルになっている。派手な艶ではなく、静かで深い輝き。光を強く跳ね返すのではなく、表面の奥に落ち着いて宿る光。そこには、磨きの向こう側にある美しさがある。
奥村にとってディティーリングとは、単なる作業ではない。車の表面に触れながら、そこに刻まれた時間を整える行為でもある。オーナーの価値観、生活、好み。そのすべてが車の表情に表れているからだ。

「車はオーナーのもう一つの顔。」
そう語る奥村は、今日もガレージで仲間達と考えを共有している。少し変わった洗車磨き専門家の美意識とこだわりが、また一台の車に新しい光を与えていく。